No.10

North Creek Farm

余市川のほとりで目指すは
北海道の大地が思い浮かぶワイン

国道5号線は、余市川の右岸、仁木町中心部の平野部に川に沿って伸びている。余市町のインターチェンジを出て、この国道5号線を倶知安方向にしばらく走ると仁木町に入る。程なく走り、右折すると左手に垣根仕立てのブドウ園が見えてくる。鈴木正光さん、綾子さん夫妻が営むNorth Creek Farmだ。

ブドウ園がある一帯は平地で、かつては余市川の河川敷だった場所。今も近くを余市川が流れている。水捌けがよく、畑を掘り起こすと小石や砂が出てくる。そして風の通りも良い。周辺では今も生食用ブドウのブドウ棚やサクランボの畑が点在している。鈴木夫妻がここにブドウ園を拓いたのは2020年4月のことだ。
「この畑では、とても美味しいサクランボが獲れていたと聞きます。水はけ、風とおりの良さなど、ブドウ栽培に適した条件が揃っていると思い、ここでブドウを育てることを決めました」と2人は語る。「平地のため、作業性が良さそうだと思ったのもここを選んだ理由の一つです」。日中、畑で作業をしている2人には、川の流れの音、鳥のさえずりが聞こえてくるという。北の地(北海道)に流れる川(Creek)に隣接する畑なので、North Creek Farmと名付けられた。

畑の敷地面積は約2.3ヘクタールで、そのうち植栽面積は約1.7ヘクタール。4,000本のブドウを育てており、栽培品種は合計7品種。北海道でも良質なブドウが獲れそうな品種の中から、自分たちが好きな品種を選んでいる。ピノ・ノワールが最も多く、全体の4分の1を占める。次いで多いのが香り高いゲヴュルツトラミネールで、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロが続く。赤と白の割合は、38パーセント対62パーセントで白が断然に多い。
除草剤は使わないが、ブドウの育ち方、病害の発生、そして虫による被害を見ながら、必要最低限な有機栽培で認められた農薬を撒くようにしている。糖度と酸度のバランスには特に気を配り、最適な時期に収穫することを心がける。

2人が目指ししているのは北海道の大地や自然が思い浮かぶようなワイン。そのために、できるだけ自然な造りを目指しており、野生酵母で発酵させることを選んでいる。
2022年、自園で初収穫を迎えた5品種のブドウは、近隣のドメーヌ・ブレスへの委託醸造で「Blush2022」というワインに仕上げた。収穫が早かったゲヴュルツとケルナーをマセラシオン・カルボニックという方法で発酵させて、これに、その後に収穫したピノ・ノワール、ピノ・グリ、リースリングを房のまま加えて搾って、野生酵母で発酵させた。出来上がったワインはほんのりと赤みがさしており、ワインの名前はその色調に由来する。生産量は年々増加の予定で、24年には、約2,500本のインの販売を見込んでいる。

「うまくいけば、ピノ・ノワールのワインリリースが期待できそうです。これをフラッグシップへのワインと育てていければと思っています」と2人は期待を寄せる。
鈴木夫妻は、自園のブドウのワインに加えて、農家さんから購入したキャンベル・アーリーで微発泡酒も造っており、今後も生産が続く予定だ。

ブドウ園を拓いた、North Creek Farmの代表の正光さんは静岡県浜松市出身。故郷のお茶畑や天竜杉の森を身近に感じながら育った。ワインとの出会いは、社会人1年生の時。結婚後、2人で世界各地のワインを飲んでいるうちに、自分たちでもワインを造りたいと思うようになったという。

その後、ワイナリーの開業に向けてのプロセスや資金繰りを検証して、その実現の可能性を感じた正光さんは、18年春、ワイン用ブドウ栽培と醸造を学ぶために夫婦2人で長野県の千曲川ワインアカデミーに通いだし18年の秋、定年前に会社を退職した。そして翌年、ワイン造りを視野に夫婦で仁木町に移住、まずは地域おこし協力隊として、ブドウ栽培、ワイン醸造の研修を受けなが農地を探した。醸造については、日本のワイン造りに多大な影響を与えている北海道岩見沢市の10Rワイナリーのブルース・ガットラヴさんのもとで、2シーズンに渡り醸造の研修を受けた。その他、北海道ワインアカデミー、しりべしワインアカデミー、近隣の農家さんに教えを乞うなど栽培を学び続けている。初収穫は近隣のドメーヌ・ブレス(リンク貼る)に委託して醸造した。

北海道に移住して生活は一変。
「春の雪どけとともに、朝から日暮れまで畑での作業の日々が続きます。定休日があるわけではなく、天気次第で雨が強ければ、畑仕事は休みます。冬にブドウが雪で覆われれば、畑仕事は休息期に入りますが、蔵の仕事が中心になります」と正光さん。都会で毎日通勤する暮らしから、まさに「晴耕雨読」、自然をごく身近に感じて過ごす毎日を過ごしている。
そして24年、2人は自分のワイナリーで醸造開始という大きな一歩を踏み出す。畑の傍にあった築55年の納屋を面改修して醸造棟を3年に完成させた。

今は基本的に夫婦2人で作業をするが、ワイン造りが軌道に乗ば、人手を増やして定した生業にしたいと思っており、目標は8,000から1万本の生産量だ。

フラッグシップワイン

銘柄

Blush field
blend 2022

ぶどう品種

ピノ・ノワール、
ゲヴュルツトラミネール、
ケルナー、ピノ・グリ

ケルナー、ピノ・グリ唯一無二の個性が
光るロゼワイン

オレンジがかった色合い。リンゴのコンポートや桃のような香りがすぐに立ち上る。程よい厚みの果実味をやや強めの酸が追いかける。造り手夫妻が自ら育てた、黒ブドウと白ブドウを一緒に野生酵母で発酵させている。

ワイナリー情報

開園年:2020年

自社畑面積:2.3ha

年間生産量:2,500本(2024年時点)

栽培品種:ピノ・ノワール(25%)、ゲヴュルツトラミネール(17%)、ソーヴィニヨン・ブラン(15%)、メルロ(13%)、その他ピノ・グリ、ケルナー、シャルドネ

代表的なワイン:Blush

ワインの入手方法:中根酒店(余市)、馬場商店(余市)、小樽高島加藤商店(小樽)、丸い遠藤商店(小樽)など

住所:北海道余市郡仁木町西町11-10

お問い合わせ:masamitsu_suzuki@hotmail.com

鹿取 みゆき

[ フード&ワインジャーナリスト、(一社)日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授 ]

『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』(虹有社)、『日本ワイン99』(プレジデント社・共著)などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材し、ワインと食と農業をテーマの講演も多い。人呼んで“日本ワインの母”。
仁木町では、2020年よりアドバイザーに就任。仁木町民に対してはワインに関する知識を広めること、生産者に対しては最新の知見の共有を通じて、事業の定着化やコミュニティーの育成を通じたワイン文化の育むことに取り組んできた。