No.09

NIKI Hills Winery

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世界を見つめる眼差しと
飲み手への愛情を込めたワイン造り

余市町から然別余市線を仁木町の方に車で向かうと前方には小高い丘が見えてくる。その頂にはシンプルだが洗練された建物が建っている。さらに道なりに進んで旭台に入り、然別余市線から右折して少し走ると、広大なブドウ園が視界に飛び込んでくる。まるでカリフォルニアのワイナリーのように雄大で美しい光景に息を呑む。これがNIKI Hills Wineryだ。

創業は2014年。同年に耕作放棄地の整備に着手し、翌年、醸造棟が完成し、近隣の農家さんのブドウで醸造を開始している。きっかけは親会社である総合広告代理店D A Cグループの会長、石川和則さんの仁木町訪問だった。当時石川さんは、同社のより広い研修所を建てる候補地を探していた。そしてこの町が限界集落を抱えていること、一方で果樹栽培が盛んな魅力ある町であることを知る。

「石川会長は、現在、醸造棟がある旭台の丘からの眺望を初めて見た時に、運命的なものを感じたそうです。長年、広告業界で日本各地の地方でお世話になったこともあり、この地にワイナリーと自活できる研修所とを造って、人間教育と地方創生を実現しようと決心したのです」と、現在、ワイナリーで醸造責任者を務める太田麻美子さんは語る。
自社農園は、かつては生食用ブドウが栽培されていた緩やかな斜面に広がる。その植栽面積は6.8ヘクタールと仁木町随一。ワイン用ブドウ産地としては先駆的な、お隣の余市町にあるブドウ園と比べても、トップクラスの広さになる。畑は一枚続きだが、斜面の向きも北東から南東まで場所によって異なっており、シャルドネ、ケルナー、ピノ・グリなどの白用品種は前者、ピノ・ノワールなどの赤用品種は後者の斜面というように、区画を分けて栽培している。もっとも栽培面積が多いのが、シャルドネで、ピノ・ノワール、ケルナー、メルロが続く。国際的に知られている品種で世界で勝負したいという思いから、国際品種の中から、この地に適していると思われる品種を選んだ。ワイナリーの年間生産量は、約43,000本で、将来的には50,000本まで拡大したいという。

33ヘクタールの敷地内には、ブドウ畑、醸造棟、ガーデン、ショップ、レストラン、自然豊かな森、そして宿泊施設を備えている。宿泊施設の入り口から入ると、一面ガラス張りのレセプションに出る。フロアからの眺めはまさに絶景。目の前には自主のブドウ畑、余市川の流れる平野、天気の良い日には、余市湾まで見渡せる。初夏の新緑、真冬の雪景色と季節ごとに違った風景の表情が楽しめる。テイスティングコーナーでは、NIKI Hills Wineryの有料テイスティングも可能だ。醸造工程や設備を見学した後に、ワインのテイスティングもできるワイナリーツアーも実施。さらにランチとディナーの食事とワイナリーのワインのペアリングもおすすめだ。またワイナリーの敷地内の森をガイド付きで散策するネイチャー・トレッキングのアクティビティもある。訪ねて楽しいワイナリーでもある。

現在、ワイナリーでは、自社農園のブドウと購入したブドウを使って、約10アイテムのワインを造って販売をしている。白はケルナー、バッカス、シャルドネなどからそれぞれワインを造り、赤はツヴァイゲルト、メルロなどからワインを造ってきた。赤ワインと白ワインの比率は1:2。他に、スパークリングワインや甘口ワインもある。

白ワインでは、北海道のブドウらしさを大切にして、ブドウ本来が持つアロマを最大限に活かすことを大切にしている。赤はまだ生産量が限定的。たとえば、メルロは無理な抽出はせず、とてもエレガントで上品な味わいに仕上がっている。

「赤も白も、エレガントな香りを引き出すことと料理に寄り添うようなスタイルを目指しています」と太田さんは語る。 

柚子のような和柑橘のフレーバー溢れる「HATSUYUKI」は自社農園と農家さんのケルナー100パーセントで造られたワイン。現在は、このワインが同ワイナリーの定番アイテムだ。今後は、シャルドネやピノ・ノワール、そしてスパークリングワインをフラッグシップにしていく予定だ。

醸造を担当している太田さんは料理の道からワインの世界に入ってきた。学生時代にフランスに留学。そこでフランス料理、とりわけソース文化に感動して、フランスの料理学校の名門である、ル・コルドン・ブルーの日本学校に通った。その後、東京のフレンチの厨房で働いたり、フロアでサービスとして働いたりするように。縁があってNIKI Hills Wineryでソムリエとして働き出したが、収穫や仕込みでワイン造りに実際に関わるうちに、ワインの魅力に取り憑かれようになったという。ニュージーランドのプリリ・ヒルズ、シャンパーニュのジャック・セロスの下で醸造を学ぶ機会も得た。そして21年からは、自ら醸造を手掛けるようになった。出産も経て、現在は、子育てをしながらワイン造りにあたる。
「『ワイン』、『娘』、そして『仲間』が、今の私の人生で掛け替えのないもので、日々の生活の大部分を占めています。これからの人生の中で変わらず大切にしていきたい」と太田さんは語る。

実はNIKI Hills Wineryのワイン、YUHZOME は国際コンクール、「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で、日本の赤ワインとして初の金賞を受賞しており、太田さんも世界に通用するワイン造りを目指している。とはいえ、いつも飲み手への視線は忘れない。

「旭台でできるブドウの個性を追求し続け、世界に通用するワインを造っていきます。とはいえ飲む方にとっての1本であるということを、常に意識しながら、大切に造っています」。と太田さんは語る。

フラッグシップワイン

銘柄

HATSUYUKI 2022

ぶどう品種

ケルナー100%

瑞々しい柑橘のような
フレーバーを堪能

美しく輝く麦わら色。柚子、青草、そして金木犀のような香りが立ち上り、芳醇。生き生きとした酸が支えた味わいは爽快。料理への関心がきっかけにワインの虜になった女性ワインメーカー、太田麻美子さんが造る。

ワイナリー情報

開園年 : 2014年

設立年 : 2015年

年間生産量 : 約30,000本

自社畑面積 : 6.8ha

栽培品種 : シャルドネ、ピノノワール、ケルナー、メルロー、ピノグリ、ピノムニエ、ツヴァイゲルト、ミュスカデ、カベルネフラン、ソーヴィニョンブラン

代表的なワイン : HATSUYUKI

ワインの入手方法 : NIKI Hills Winery(仁木)、自社通販サイト、グランヴァンセラーさっぽろ東急店(札幌)、酒舗七蔵(札幌)、大丸東京店(東京) など

住所 : 北海道余市郡仁木町旭台148-1

お問い合わせ : 0135-32-3801

営業時間 : 10時〜16時

定休日 : 火・水曜日

WEB

鹿取 みゆき

[ フード&ワインジャーナリスト、(一社)日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授 ]

『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』(虹有社)、『日本ワイン99』(プレジデント社・共著)などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材し、ワインと食と農業をテーマの講演も多い。人呼んで“日本ワインの母”。
仁木町では、2020年よりアドバイザーに就任。仁木町民に対してはワインに関する知識を広めること、生産者に対しては最新の知見の共有を通じて、事業の定着化やコミュニティーの育成を通じたワイン文化の育むことに取り組んできた。