No.06

naritaya

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美しい景色、滋味溢れる蕎麦とともに堪能する
涼やかなワイン

仁木町の中心を流れる余市川の左岸には、旭台と呼ばれる高台がある。高台からは、悠々と流れる余市川、その両側に広がる余市平野、そして仁木町の中心部が見渡せる。一帯は余市川が形成した扇状地の根元にあたり、サクランボなどの果樹栽培が古くから行われてきた。
そんな高台で、ブドウ園と蕎麦とワインの店、「naritaya」と、1日2組限定で宿泊が可能な宿、「naritaya lodge」を営んでいるのが成田真奈美さんとそのご主人の和仁さんになる。2人は自分たちのお店を建てる場所を探すために、足掛け3年の年月をかけた。

「美しい景色と共に主人が打った蕎麦と日本ワインを楽しめる。そこでしかできないことを体験できるようなお店を北海道に作りたいと考えていました」と真奈美さん。2人は休みの度に東京から北海道に訪れて、余市町や仁木町の候補地を何カ所も訪ねた。こうしてようやく出会ったのがこの旭台の土地だったのだ。当時は数本のサクランボの木が残る耕作放棄地だった。
「この場所から見渡せる景色の素晴らしさに惚れ込んでしまいました」。
そして2人は仁木町に移り住むことを決めた。この土地が余市川に向かった南向き斜面であることも背中を押してくれた。

ブドウ園の開園は2020年。25アールの土地にリースリングなど、約1000本のブドウを植えた。ブドウの実がつくまでの間、農業で何らかの収益を上げる必要があり、当初はミニトマトの栽培も考えたが、翌年すぐにブドウ栽培1本に絞ることを決心。合計30アールになったブドウ園で、現在はシャルドネ、ピノ・グリ、リースリング、ピノ・ブランを栽培している。リースリング好きの2人は、当初リースリングのみを栽培したかったという。しかし、栽培が難しいとされているこの品種に集中することに周囲から反対されたこと、また20年当時は、まとまった数のリースリングの苗木の入手が困難だったことの二つの理由で、ドイツ・アルザス系品種を中心に、自分たちが造りたいワインのイメージに合わせて品種を選んだ。現在全品種の平均樹齢は約4年になる。栽培方法では除草剤や化学肥料を使わない。さらに、農薬もできる範囲で減らす努力も続けている。

21年ヴィンテージの初リリース以来、2人がリリースしたのは、「Asahidai 245 Blanc」という白ワインのみ。このワインは、自分たちが育てているシャルドネ、ピノ・グリ、リースリング、ピノ・ブランで造っている。現時点でワイナリーのない2人は、近隣のDomaine Blessさんで醸造を委託してワインを造る。とはいえ、もちろん、仕込みの時期には、自ら醸造所に出向き、作業にあたる。

造りはこの4品種を同時に収穫して、一緒に醸造するというフィールドブレンド。畑のある北海道・旭台の澄んだ空気やテロワールをそのまま映し出すような、キリッとした味わいのエレガントなスタイルの白ワインを目指している。2024年には、2人が好きなリースリングを主体にしたワインとシャルドネを主体にしたワインがリリースされる予定。今後もブドウの収穫に応じてアイテムが変わる可能性があるが、当面白ワインに特化したワイン造りを予定している。

「Asahidai 245 Blanc」は白い花のような香りが芳しい。ほのかな苦味が複雑さを感じさせ、後味に残る酸に支えられた果実味が実に心地よく、冷涼な気候が思い浮かぶ。

初めにワインへの強い想いを持っていたのは、真奈美さんの方だった。30代になったばかりの頃、ボルドーワイン、「シャトー・グリュオ・ラローズ」の当時のオーナー一家の来日時のイベントに参加してワインのおいしさに開眼。以来、様々なワインを飲むようになった。

「2016年ぐらいから、東京での仕事を辞めて、日本のワイン産地で、蕎麦とワインを供する店を造りたいと2人で思い描くようになりました。実は自分たちのワインも造れたらという淡い想いも抱いていましたが、未経験の自分たちにはまさかできるはずはないと諦めていました」と真奈美さん。しかし、出会った土地の取得条件が「農家になること」で、それに背中を押されて、ワイン用ブドウを栽培し、ワインを造っていくことに決心がついた。ワインについては、北海道に移住するまで、ワイン学校などで学び、J.S.A.ワインエキスパート、WSET Level 3、そしてドイツワインケナーの資格を取得していたが、ブドウ農家やワイナリーといった造りの現場での研修は受けていなかった。しかし栽培・醸造共に師匠を仰ぐ方に出会うことができ、とりわけ栽培については入植後に一から教えを乞うことができた。

naritayaは蕎麦とワインの店と謳っているように、石臼挽きの北海道産小麦粉に拘った手打ちの細切り蕎麦をワインと楽しむのもよし、土日祝日のみだが、5、6種類のお料理の盛り合わせの蕎麦前プレートと楽しむのもよし。ワインとともに美味しいお蕎麦が堪能できるお店になっている。週5日はお蕎麦のお店を開けて、週2日の定休日は畑に出る日々だ。できれば畑中心の生活に変えていきたいとも思っている。蕎麦粉をはじめ食材は地元北海道産に拘り、、その味わいが人気を呼び、訪ねる人が途切れることはない。お店では、お二人のワイン、「Asahidai 245 Blanc」に加えて、道産ワインを中心に日本各地の日本ワインも揃う。

フラッグシップワイン

銘柄

Asahidai 245 Blanc

ぶどう品種

シャルドネ、ピノ・グリ、
ピノ・ブラン、リースリング

澄んだ空気感の
旭台の風土を表現

白い花や烏龍茶のような芳しい香り。とろりとした質感。果実味にはほのかな苦味があるが、ヴィヴィッドな酸も魅力的。4品種を一緒に発酵させた複雑な味わい。後味に残る果実感が心地よく、それが長く続いていく。

施設情報

開園年 : 2020年

自社畑面積 : 0.3ha

年間生産量 : 904本

栽培品種 : シャルドネ(48%)、ピノ・グリ(39%)、リースリング(5%)、ピノ・ブラン(6%)

代表的なワイン : Asahidai 245 Blanc

ワインの入手方法 : 中根酒店(余市)、馬場酒店(余市)、丸い遠藤商店(小樽)、酒商たかの(小樽)、ワインショップフジヰ(札幌) など

住所 : 北海道余市郡仁木町旭台257

お問い合わせ : 0135-32-3877

営業時間 : 11時30分〜14時30分*(ラストオーダー閉店30分前)
*ただし、蕎麦が無くなり次第終了となります。

定休日:火・水曜日

※施設の目の前の畑は他社の畑ですので立ち入りはお控えください。

WEB

鹿取 みゆき

[ フード&ワインジャーナリスト、(一社)日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授 ]

『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』(虹有社)、『日本ワイン99』(プレジデント社・共著)などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材し、ワインと食と農業をテーマの講演も多い。人呼んで“日本ワインの母”。
仁木町では、2020年よりアドバイザーに就任。仁木町民に対してはワインに関する知識を広めること、生産者に対しては最新の知見の共有を通じて、事業の定着化やコミュニティーの育成を通じたワイン文化の育むことに取り組んできた。