No.03

DOMAINE HARBIOSE

周囲への感謝を胸に、
真摯にブドウと向き合う若き造り手

余市町から余市川の左岸を川沿いに走る道路が然別余市線。この道を南下して鮎見橋を過ぎると、仁木町の旭台地区に入る。ここは扇状地と丘陵地隊の境目で、道の右手には、丘が迫ってきており、その斜面にはワイン用ブドウのブドウ園やワイナリーが増えつつある。
旭台地区に入ってすぐ、畑の真ん中にワイナリーが佇んでいるのが見えてくる。ドメーヌ・アルビオーズだ。設立は2022年、旭台では4軒目のワイナリーだ。ワイナリー設立に先立ち、19年にはブドウ栽培開始、21年には委託醸造でワインも造り出している。

ワイナリーを営む株式会社フィールドオブドリームスは、元々は化粧品やサプリメントの販売が主な業務。そんな異業種の会社がなぜワイン造りに乗り出したのだろうか?
「本社のCEOと代表が、ニセコで余市町のワインの評判を聞き、その帰りに余市町に立ち寄ってドメーヌ・タカヒコを訪問。そこで曽我貴彦さんに、そんなにワインが好きなら、ワイン造りに取り組んでみては?と言われたのが、きっかけでした」と、ワイナリーの栽培醸造責任者の服部碧さんは語る。仁木町や余市町で土地を探していたところ、見つかったのが旭台の耕作放棄地だ。そこには、かつてはブドウ棚や梅の林があったというが、長年の放棄により木々が生い茂り、ジャングルのよう。しかし代表の井内由佳さんには、通り抜ける風がとても心地良く、ここでブドウを育てて、ワインを造ることを決めた。また仁木町の役場の方々の対応のおかげで、友人、知人もいない未知の土地にも関わらず安心感が生まれたことも背中を押した。それが2018年のことになる。

開墾は、荒れ果てた農地を造成することから始まった。水も電気も通っておらず、まさにブドウ園の開園もワイナリー設立も手探り状態だったという。「何もわからないところからのスタートでした。道内外の10軒以上のワイナリーをスタッフで手分けして巡り、いろいろなワイナリーの醸造担当者の先輩方からアドバイスをいただき、竣工を目指しました」と、服部さん。
畑はかなり緩やかな南向き斜面にひらかれており、敷地面積は6ヘクタールで、そのうち植栽面積は1.5ヘクタール。育てているのは、ピノ・ノワール、ケルナー、ソーヴィニヨン・ブランになる。将来は、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランを増やして、3ヘクタールにする予定だ。醸造所も、100平米の小さなワイナリーだ。

ワイナリーの名前、「HARBIOSE」は、Harmony(和合)とSymbiosisi(共生)の造語。
「未来と自然、そして地域の人々や仲間たちと和合しながら共に栄えるというワイナリーの理念が名前の由来です」と服部さん。「私たちは、小さなワイナリーです。でも将来は、試飲スペース、ワインショップ、そして畑を眺めながらゆっくりできるような場所を作って、訪れる人を受け入れられるようにしたいです」。
余市駅前のビルを改装して、LOOPというホテルもスタートさせている。このホテルには1階にレストランがあり、余市町、仁木町のワインが飲める。

現在、生産している赤と白の比率は、3対7で白が圧倒的に多いが、本社のCEOと代表が一番好きなピノ・ノワールの栽培面積が最も広く、今後はピノ・ノワールの赤ワインが増えていく。

フラッグシップのワインは、ケルナーで造った「雪洞(Bonbori)」。服部さんたちが自分たちで育てたブドウのみで造られている。状態の良い房のみを選び、房のまま搾り、発酵させる。ワインにとって畑が主役であり、醸造は畑の作業の延長線上にあると考え、野生酵母で発酵させることを選んだ。柚子の香りが印象的で、ほのかな甘さが優しい印象のワインは、誰にでも好かれそうな味わい。
ワインの年間生産量は、今、現在は年間3,000本だが、将来は2万本に増やすことを目指している。

栽培醸造責任者は服部碧さん。予期せぬ出来事がきっかけになり、ワインの世界に飛び込むことになった。その時、服部さんは20代だった。
「今の会社の社長が、北海道でブドウを栽培し、ワインを造る人を探していると聞いた母が、
突然、北海道に移住したいと言い出しました。母は当時59歳。1人で行かせるのも心配でしたし、私もその時、就職先を探していたので、思い切って2人で移住することにしました」と服部さんは振り返る。
2人が暮らしていたのは、九州の福岡県。それが一転して、北国の北海道の未知の土地で、ブドウを育てる暮らしになったのだ。ここに至るまでの日々は決してなまやさしいものではなかった。
「移住直前の段階では、指導者もいなくて、親子2人きりになりそうだと思い、とてつもない不安に駆られてました。こちらに来てからも目の前のことに無我夢中で、気付いたら夏が来て、冬になってしまう。あっという間に数年が経っていました。今でもその2年間の記憶が曖昧なほどです」。
 しかし仁木町に来て、栽培を始めて3年目。一つの出会いが大きな転機になった。近隣のドメーヌ・ブレスの本間裕康さんと出会い、彼のワイナリーで研修を受けながら、自社で始めて収穫したブドウを委託醸造することができたのだ。
「ワイン造りを毎日のように本間さんに手取り足取り教えてもらう中で、ワイン造りの仕事を心底、楽しいと思えました。畑も行き来させてもらい、直接、教えてもらえるようになりました」と服部さん。Bobonboriはそうやって生まれたワインだった。
 この仕事に就く前はワインとの接点がほとんどなかった服部さんは、Bonboriへの思いをこう語る。
「ワインをあまり飲んだことのない人にぜひ飲んでもらいたいと思っています。自分のようにワインに縁がなかった人が、ワイン好きから勧められる最初の1杯になってくれれば嬉しいです」。

フラッグシップワイン

銘柄

BONBORI 2022遅積み

ぶどう品種

ケルナー 100%

芳香溢れる
穏やかな甘さの白ワイン

アールグレイのような香り。穏やかな甘さと酸のバランスが絶妙で親しみやすい。遅摘みの自社畑のブドウが原料。足さない、引かない造りでブドウ本来の味わいを表現。

ワイナリー情報

設立年 : 2022年

年間生産量 : 3,000本

自社畑面積 : 1.5ha

栽培品種 : ピノ・ノワール、ケルナー、ソーヴィニヨン・ブラン

代表的なワイン : BONBORI

ワインの入手方法 : 中根酒店 (余市) 、 丸い遠藤商店 (小樽) 、ワインショップフジヰ(札幌) 、Wine&Cheese北海道興農社(新千歳空港店)ほか

住所 : 北海道余市郡仁木町旭台306

お問い合わせ : a.hattori@yoichigawa-wineryclub.com

WEB

鹿取 みゆき

[ フード&ワインジャーナリスト、(一社)日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授 ]

『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』(虹有社)、『日本ワイン99』(プレジデント社・共著)などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材し、ワインと食と農業をテーマの講演も多い。人呼んで“日本ワインの母”。
仁木町では、2020年よりアドバイザーに就任。仁木町民に対してはワインに関する知識を広めること、生産者に対しては最新の知見の共有を通じて、事業の定着化やコミュニティーの育成を通じたワイン文化の育むことに取り組んできた。