No.01

Kii’s Open Field

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日々、果樹と向き合い、
食べ手や飲み手を思う、
暮らしぶり

キイズ・オープン・フィールドは、喜井敬介さん、裕子さんのご夫妻が営む果樹園だ。立地は余市川の右岸、扇状地の裾野にあたり、周辺には果樹園が点在している。仁木町のワイン用ブドウを栽培地の中では比較的標高は低い。2人は、この果樹園でサクランボ、ブルーベリー、プルーン、西洋梨、リンゴ、そのほかのベリー類やナッツに加えて、ワイン用ブドウを育てている。開園は2010年になる。

この土地の前の持ち主も果樹農家で生食用ブドウも栽培していた。後継者がいなかったその持ち主から喜井夫妻が引き継ぎ、より良い果樹生産を求めて植え替えを続け、14年で8割を改植した。
「仁木町への移住を決めた時には、『農家を目指す』ことしか考えていませんでした。見学させていただい際にこの土地を見て、果樹を栽培することを決めました」と2人は語る。具体的に何を育てるのかは、当初は白紙だったのだ。
「改植前に畑の土を掘ってみると、1メートル以上も砂土が続き、サラサラでした。水捌けの良さを実感し、それならワイン用ブドウも栽培できるかもしれないと考えました」。こうして14年には、ワイン用ブドウの栽培を開始、それが今のワイン造りに繋がっている。

現在、果樹園の面積は2haで、そのうちワイン用ブドウは0.4ヘクタール。赤用品種のピノ・ノワールと白用品種のソーヴィニヨン・ブランの2品種に絞って栽培している。
「気候変動により、今まで北海道では栽培が難しいと言われていたフランスで栽培されている品種の栽培が可能になってきました。美味しいワインが造れるのはこれだと思い、この2品種に決めました」と敬介さん。
ブドウ本来の香りなどの特徴を活かすため、除草剤は使わず、殺虫剤も極力不使用、堆肥や有機肥料を使っています。収穫直前は薬は撒かない。収穫時には、状態の良い房だけを選んでワイナリーの醸造所に運ぶ。

「当初は育てたブドウをどうやってワインにするか、全く決めていませんでした」と夫妻は振り返る。
「年月を経て、まとまった収穫が獲れる見込みがついて、これは困ったぞと思いました。車で約5分のところにあるNIKI Hills Wineryさんにブドウの購入を打診してみたところ、委託でワインを造ってみないかと逆に提案されました。そして思い切って、ワイン造りにもチャレンジすることにしました」。

2023年末時点で、ワインは白とロゼの2アイテムのみ。育てている品種の名前をそのままワイン名にしている。生産量は、畑での収穫量よって異なるが、全部で年間約1,000本の生産量を目指す。白もロゼも、畑で丁寧に選果したあと、ワイナリーに持ち込み、ブドウを房のまま搾って発酵させている。いずれも樽熟成はしていない。ピノ・ノワールについては、今後ブドウの状態によっては赤ワインに仕上げることもあるかもしれない。

2人が大切にしているのは香り。ブドウの香りを大切にしつつ、果物の持つおいしさをワインに封じ込めようとしている。
例えば、2022年仕込みのピノノワールのロゼワインは、透明感のある美しい茜色に仕上がっている。豊かな酸に彩られた、生き生きしたベリー系の風味がストレートに楽しめる味わいだ。

喜井夫妻は、共に関西出身。2人の出会いの土地は札幌だ。敬介さんは、滋賀県で企業での研究開発の仕事に従事していたが、往復2時間半の通勤生活に疑問を抱く様になった。家族でできる個人事業を探していたところ、「農で起業する」という本に出会う。「農業いけるかも」と考えて、調査開始。それから1年足らず、農業経験ゼロで50歳前後の夫婦を快く受け入れてくれた仁木町に移住した。

果物やワインとともに、お客様へ直接販売しているのは、自ら育てた果物を使った焼菓子。
就農してからお世話になった農家さんなど周囲の人たちに、お礼の気持ちから作り始めた。そのお菓子を食べて人たちから「販売しないの?」と言われたが、製菓の勉強をしたことはなく半信半疑。お墨付きが欲しいと思って参加した、NPO団体主催のスイーツコンテストで運良く優勝、その後レシピを練り上げて販売を始めた。レシピの研究は今なお続けている。
「日常は何をしている時も、頭の中は畑のことでいっぱいです。けれども、直接、果物やワインをお届けするお客様とのコミュニケーションも大切ですし、楽しみでもあります」と語る。

果樹園の仕事が全てになった2人は、自分たちで育てた果物、そして果物からできたジュース、ワイン、そしてお菓子を食べ手や飲み手に届けつつ、繋がりを紡ぐ。「北海道の “美味しい” を届ける」を目指しているが、ゴールはまだ先だと言う。

そんな2人の心にあるのは、Feeling Goodという歌の歌詞だ。大空を飛ぶ鳥たちを見つめ、輝く太陽の下、そよぐ風を感じながら、畑で働く。そんな暮らしぶりを続けている。

フラッグシップワイン

銘柄

Pinot Noir 2022

ぶどう品種

ピノ・ノワール、
ソーヴィニヨンブラン

フレッシュで瑞々しい
キュートなロゼ

透明感ある美しい茜色。生き生きとした酸が果実味を際立たせ、瑞々しい印象。広がるベリー系の香りのフレッシュでキュートな味わい。キレの良い後味。果物から生まれた美味しさを大切にする喜井夫妻のワイン。

施設情報

開園年 : 2010年

自社畑面積 : 2ha

栽培品種 : ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール

代表的なワイン : ピノ・ノワールロゼ

ワインの入手方法 : 一般の酒販売店では取り扱っておりません。ご注文はFAX、メール、電話などで承ります。詳しくはHP「販売のご案内」をご確認ください。

住所 : 北海道余市郡仁木町南町3-28

お問い合わせ : p_kii@ybb.ne.jp

WEB

鹿取 みゆき

[ フード&ワインジャーナリスト、(一社)日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授 ]

『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手』(虹有社)、『日本ワイン99』(プレジデント社・共著)などワインに関する著書多数。全国のワイン生産者やワインブドウ栽培者の現場を取材し、ワインと食と農業をテーマの講演も多い。人呼んで“日本ワインの母”。
仁木町では、2020年よりアドバイザーに就任。仁木町民に対してはワインに関する知識を広めること、生産者に対しては最新の知見の共有を通じて、事業の定着化やコミュニティーの育成を通じたワイン文化の育むことに取り組んできた。