北海道ワイン後志ヴィンヤード
大手メーカーが挑戦する
未来を見据えた新しいブドウ栽培
小樽市にある北海道ワインは、日本ワインの最大の生産量を誇る。年間生産量は250万本で、他の追随を許さない。こうした北海道ワインのワイン造りを支えているのが、約200軒の契約農家と広大な自社管理農園だ。後者については、石狩平野の北端にある樺戸郡浦臼町の鶴沼ワイナリー(ワイナリーという名称だが醸造施設はない)と本州の北海道ワイン能登ヴィンヤードが挙げられる。合計栽培面積は80ヘクタール。自社管理畑の面積でも日本のワイナリーの中では抜きん出ている。北海道ワイン後志ヴィンヤードは、その北海道ワインの3つ目の自社管理畑になる。
背景には日本の農業が抱えている課題が指摘できる。一つは契約農家の高齢化、もう一つは農家の後継者不足だ。ワイン用ブドウの栽培が活発な余市町、仁木町を擁する後志地方も例外ではなく、北海道ワインとしては、これらの課題解決を目指し、2019年から構想を練ってきた。それがこの後志ヴィンヤードの開園になる。同社としては、ブドウ園の開園が、ひいては原料確保にも繋げたいのだろう。
当初は、仁木町の隣接する余市町で8ヘクタールほどの土地を探したが、条件を備えた土地が見つからず、仁木町で探すことになった。畑を拓いたのは仁木町の東側、東町の山より一帯で、緩やかな斜面になっている。敷地面積は7.6ヘクタールで、現在の植栽はそのうちの4.2ヘクタール。栽培している品種は、シャルドネが最も多く全体の32パーセント、次いで、ピノ・ノワール、ケルナーそしてアコロンが続き、全部で4品種を手がける。アコロンは北海道ワインが独自に輸入した交配品種で耐病性が高いと言われている。現在の収穫量は3.5トンだが、将来は畑も10ヘクタールに拡大して、収穫量も10倍以上の40トンを目指す。
このブドウ園の取り組みで特筆すべきは、有機栽培とスマート農業の導入だ。有機栽培については、すでに21年に圃場(4.2ha)が有機JAS認証を取得して、昨年はとうとう認証を受けた区画の初収穫を迎えている。杭の高さを上げて、ブドウの房がつく位置を高くして湿度の影響を少なくする。害虫は人の手で駆除するなど、有機栽培を可能にするために、さまざまな試みにも取り組んでいる。より高品質なワインを目指し、良い房を選び、他を落とすという摘房も行っている。
この後志ヴィンヤードのブドウで造られたワインは、まだリリースされていない。将来的には、ここのブドウでスパークリングワインを造るという計画もあり、シャルドネなどの品種は、その計画を見据えて選ばれた。ちなみに、北海道ワインのワイナリーは、小樽市にある。250万本の大半が低価格のワインで、誰にでも手に取りやすい値段だ。
農場長の小林千洋さんは、北海道余市町出身。実家は余市町のリンゴ農家でした。1993年、同社が北海道の果樹農家と深い関わり合いを持つことを知り、入社した。入社後は、醸造、品質管理を経て、2000年には、1年間、ドイツに留学して、北海道と同様に冷涼な気候のブドウ栽培を学んだ。
アコロンに可能性を見出し、15年からこの品種の苗木を輸入したのが小林さん。
「アコロンは、クセはあまり強くなく、果皮が厚く、色もよく出ます。単一品種でも、ブレンドにも使えます」と期待を寄せる。
この後志ヴィンヤードのブドウで造られたワインがリリースされることも遠くないかもしれない。